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岡山地方裁判所 平成5年(行ウ)20号 判決

原告

谷川正彦

三垣允人

松本宣嵩

大石和昭

滝浦孝

前原成美

山田雅美

南条節夫

右原告ら訴訟代理人弁護士

水谷賢

被告

岡山市長 安宅敬祐(以下「被告市長」という。)

安宅敬祐(以下「被告安宅」という。)

右被告ら訴訟代理人弁護士

服部忠文

理由

一  本件各訴えの適法性について

1  請求の趣旨1(一)(被告市長に対する主位的請求)について

〔証拠略〕によれば、原告らが、平成五年六月四日、岡山市監査委員に対し、岡山市が護国神社に本件土地を三七年間にわたって無償貸与していることは市有財産の不当な運用であり政教分離を定めた憲法に違反しているとして、その是正を求める本件監査請求を行ったこと、これに基づき岡山市監査委員は、同年八月二日、岡山市に対し、平成六年三月末日までに本件土地の使用貸借契約の解除または将来に向けての契約内容の変更等の改善措置をとることを勧告(本件勧告)したこと、これを受けて岡山市は、平成六年三月二五日、護国神社との間で、本件土地(実測面積一万一八六三・五五平方メートル)のうち、従前から奥市公園敷地等として岡山市が使用している土地二六〇四・一九平方メートルを除き、護国神社が現に使用している部分九二五九・三六平方メートルと、護国神社所有地四七三四・九九平方メートルを交換する、交換差金一九八五万一八〇九円は、平成六年三月三一日までに護国神社から岡山市に支払う旨の土地交換契約(以下「本件交換契約」という。)を締結するとともに、「既往使用料延納特約に関する覚書」を作成して、本件土地の過去一〇年間の使用料金三三〇五万二二一一円につき、同神社が平成七年三月三一日及び平成八年三月三一日の二回にわけて延納することで合意し(以下「本件延納合意」という。)、同月三一日、右交換差金を収納して、同年六月一日付けで所有権移転登記を経たことが認められる。

右事実によれば、本件交換契約の締結により、本件土地の所有権は岡山市から護国神社に移転したものであるから、現時点では被告市長から護国神社に対し本件土地の明渡しを求める余地はなく、原告主張の「怠る事実」はもはや存在しない。法二四二条の二第一項三号は、現に「怠る事実」があることを要件とし、過去の「怠った事実」の違法確認を含むものではないから、被告市長に対する主位的請求は不適法である。

原告らは、本件交換契約が無効であるとして、主位的請求はなお適法である旨主張するが、右交換契約はそれ自体が独立した一個の財務会計行為であるから、その効力を争うためにはあらかじめ法二四二条の監査請求を経たうえで取消訴訟を提起しなければならない。しかし、後述のとおり、本件交換契約については監査請求を経ていないから、本件訴えにおいて本件交換契約の無効を主張することは不適法である。

2  請求の趣旨1(二)(被告市長に対する予備的請求)について

法二四二条の二第一項に基づく住民訴訟は、法二四二条が定める監査請求を経ることが要件である。

前示認定事実によれば、本件監査請求は、岡山市が護国神社に本件土地を三七年間にわたって無償貸与していることが市有財産の不当な運用であり、政教分離を定めた憲法に違反しているとしてその是正を求めたものであるのに対し、予備的請求においては、岡山市が平成六年三月二五日護国神社との間で締結した本件延納合意に基づいて本件土地の過去一〇年間の使用料金三三〇五万二二一一円の支払を猶予していることが、「財産の管理を怠る事実」にあたるとする。しかし、本件延納合意は、前示のとおり、原告ら本件監査請求に基づく岡山市監査委員の本件勧告を受けて、岡山市がとった是正措置の一環としてなされた新たな財務会計行為であるから、本件監査請求の対象となりえず、また、本件延納合意は、護国神社が本件土地の過去一〇年間の使用料を支払うことを前提として、その支払期日を猶予するものであるから、無償貸与を問題とした本件監査請求とは対象が異なる。

したがって、被告市長に対する予備的請求は、適法な監査請求を経たものとは認められないから、不適法である。

3  請求の趣旨2(被告安宅に対する請求)について

法二四二条の二第一項四号の当該職員に対する請求は、法二四二条一項に規定する違法行為又は怠る事実に係る職員の作為又は不作為により地方公共団体に損害が生じた場合に、住民が地方公共団体に代位して当該職員に対し賠償請求することを認めたものである。右の怠る事実に係る職員の作為又は不作為による損害は、二四二条一項、二四二条の二第一項三号、同項四号の文言及び構造並びに法が二四二条及び二四二条の二では「怠る事実」としながら二四三条の二では「怠った事実」と規定して両者を文言上明確に区別していることからみて、現存する「怠る事実」による損害に限定され、「怠った事実」による損害は含まれない。

原告は、被告市長が本件土地の賃料相当額の損害賠償請求及び右請求権の時効中断手続を行わないことが右「怠る事実」に当たる旨主張するが、前示1のとおり、本件延納合意において、本件土地の過去の使用料金の支払に関して前示のとおりの合意が成立した以上、右合意の効力が否定されない限り、被告市長が護国神社に対して本件土地の賃料相当額の損害賠償請求権を行使する余地はない(前示のとおり、本件訴えにおいて本件延納合意の効力を争うことはできない。)から、もはや「怠る事実」は存在しない。

したがって、被告安宅に対する請求は、不適法である。

二  以上の理由により、本件訴えをいずれも却下し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。」

(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 濵本章子)

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